2014年08月30日

諸田玲子著「奸婦にあらず」

久しぶりに小説をしっかり読んだ。
諸田玲子著「奸婦にあらず」
図書館でふと手にとった文庫で、最初の3分の1程度までは、なんとなく読んでいたけれど、後半は一気に読了。

ヒロインのたかは、坊人と呼ばれる多賀大社の密偵。
江戸時代に朝廷と幕府の間をとりもつ役割を担った大社が、情報収集のためにあちこちに送りこむ密偵として、仕込まれた女たかは、譜代大名の彦根藩井伊家の14男の愛人となる。
22歳の部屋住みの未来が見えない若者と、密偵の28歳の女は恋に燃え上がり…というところから物語は始まる。

井伊直弼といえば安政の大獄で桜田門の変。教科書通りのことしか知らなかった。
が、彦根藩主になるまでには、庶子で14番目の男の子ということで養子の口もなく、先行きがみえず、悶々として32歳まで小さな屋敷で暮らしていた苦労人なのだ。

小説は、直弼が彦根藩主になるまでに半分ほどの紙量が費やされていて、安政の大獄に至るあたりは学んだ歴史通りにことが運ぶ。
長野主膳という人物も、まったく知らなかったが実在の国学者。小説では、たかが直弼との間を取り持ち、二人が師弟関係を結んだことになっているが、実際も主膳は直弼のために京都で幕藩体制維持のために奔走したようだ。

幕末といえば、新撰組や薩長を中心に描かれることが多いが、この小説では、幕末最大の悪者にされていた直弼の周辺の人々、それも情報収集が難しかった当時、暗躍した坊人たちを中心に描くことで、当時の混沌とした社会で命を張り合っていた緊迫感が伝わってきた。

ただ、たかの生き方そのものは、歴史と血縁に翻弄されすぎていて、彼女の志なるものが不明瞭なまま過酷な結末に至る。当時の女性が、自分の人生がままならなかったのはよくわかるが、直弼と主膳が共に見据えた幕藩体制の維持という志に、どこまで共感していたのか。結局、惚れた男と、その男が心酔する男の夢を自分のもののように錯覚していただけ。その夢の代償は、あまりにも大きかった。

ラストの「真心磨いて…けど真心ほど厄介なもんはおへん。あっちの真心がこっちの真心とはいかんさかい、争い事が絶えんのや」に尽きる。

村山たかも実在の人物。体制が変わる歴史のきしみの中でたか、直弼、主膳の3人の悲劇的な生涯を描いた力作。NHK大河ドラマの定着の大きなきっかけになった舟橋聖一著の「花の生涯」が、同じ3人を主人公にした物語だそう。読んでみようかな。


posted by 風土倶楽部 at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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