2015年10月15日

渡辺淳一著「遠き落日」

渡辺淳一著「遠き落日」
野口英世の生涯をドキュメンタリー風に描いた小説、というジャンルだと思う。

渡辺淳一という人は、「失楽園」などでセンセーショナルなアダルト小説の書き手のイメージが強いけれど、「花埋み」などの医療をテーマにした小説も書いている。
新聞の連載で「失楽園」などをちらっと読んだだけだったので、「花埋み」を読んで、明治時代に女医になった女性の自立を描いた骨太な内容にちょっとびっくりした。

野口英世といえば、幼児のときにやけどで左手が不自由になったけれど、貧困の中、医者になり、黄熱病の解明に命を捧げた英雄…だったのだけれど、実際は…というのが「遠き落日」

一種の天才肌の人だったようで、自分が興味を持った事柄については寝食を忘れて研究に没頭。一方で金銭の感覚が大幅にずれていて、借金をしまくり、友人知人に迷惑をかけまくった人でもあったようだ。
研究で少しでもわかったことがあれば、がんがん論文を書きまくって発表していたため、ずいぶん間違った研究成果もあった。
なによりも黄熱病の原因を突き止めたと思っていたけれど、梅毒などのスピロヘーターの一種だとしていたものが、結局、ウィルスで、本人はそのウィルスに汚染されて、黄熱病で命を落としてしまう。
当時の顕微鏡では、まだ、スピロヘーターしか突き止めることができず、この後、人類はウィルスとの闘いに邁進せざるをえなくなる。その過渡期に英世はいたという悲劇。
意識が薄れていく中で、「わからない…」とつぶやいていた英世が憐れでならない。

ほとんどなんの伝手もないのに、一度日本で案内しただけのアメリカ人の教授のもとになけなしの資金で渡米し、訪ねていき、ほぼ押しかけの弟子になり、やがて、その教授の右腕になり、当時の世界で最も有名な医者の一人になりあがる英世のパワーには脱帽だ。ハングリー精神の賜物。

性格的に問題があろうと、立身出世が動機であろうと、研究に人生を捧げたことに代わりはなく、人格的に破たんしていたとしても、やはり偉人には違いない。
渡辺氏があとがきで書いているように、偉人に祀り上げられていた英世よりも、この本の中の英世の方が人間的で魅力的だと思う。
映画化されたけれど、従来の英世像を壊すものではなかったらしい。
科学の重要度がますます増している今こそ、英世の生き方を映画化してみても面白いのでは?

「花埋み」の荻野吟子も、日本初の女医という栄光を味わったあと、思いがけない展開で人生の苦難を再び味わい、最後は失意の中で終わる。英世も、やはり栄光を極め、ウィルスに犯され、命を終えていく。
しかし、二人とも、命終わるときに駆け抜けた満足感はあったように思う。いや、思いたい。

渡辺氏の小説をもっと読みたい…

posted by 風土倶楽部 at 08:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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